「最近、大仰な暖簾ぶら下げて、たいそうな能書きをたれるラーメン専門店が方々に出現してね、オレにはどうもキラビヤか過ぎる。確かに昔より優れたラーメンに進化したことは認めるよ。でも『音無の構え』とでも言うのかな、客を後ずさりさせない、風潮に左右されない本流を崩さない味わいに近ごろ心が奪われるんだな、そんな店が『五芳斎』。年を食ったせいかね、なあ、小野ちゃん」
15、6年前、荒木町の「一条流がんこ総本家」の主、一条さんが早稲田に店を構えていた頃こんな話をしてくれた。
この店に来るのは10年ぶりかな。メニューは様変わりし、人気の焼売、餃子、チャーシュー麺がなくなっていた。ご主人も他界したようで、奥さんと女性従業員だけで切り盛りされている。
「ワンタン麺と半焼肉丼ください」
バラの焼豚2枚にワンタンが6個ほど、半焼肉丼に温泉玉子にお新香。これで750円は破格だ。
スープをすすると昔と変わらず鶏ガラの心地よい風味。たしか鶏ガラ主体でゲンコツを合わせたものだ。仄かに甘い醤油で実に塩梅のいい味わい。
「相変わらず旨いな~」
ややウェーブのある麺は滑らかでこれも優れもの。
焼豚はシットリとして旨い、やや固めのワンタンの歯ごたえもまたいいのだ。とにかくスキのない美味しさ。
焼豚丼は半分ながらボリュームがあり、微かな甘味ちょい薄味に好感がもてる、温玉を絡めていただくとまた美味だ。
新大久保にあった「北京亭」も一条さんに教えてもらった店で、ここのワンタン麺も美味しかったな、ふと思い出してしまった。
しかし豚肉と玉ねぎだけでこしらえていた焼売がなくなってしまったのが残念。ひょっとしたら夜のメニューにあるのかな。一度確かめなければ。
〈店舗データ〉
【住所】東京都新宿区榎町41 電話03–3268–7539
【営業】11時30分~14時 18時~21時 土11時30分~14時
【休日】日・祝
【アクセス】地下鉄東西線「神楽坂駅」2番出口から徒歩5分 地下鉄東西線「早稲田駅」1番出口から徒歩7分