「キラビヤカで情緒不安定な若人がボクの学生の頃と変わらず今も戯れている渋谷。そんな輩からいつも浮いた存在なのに、渋谷で遊ばなきゃ今どきの学生じゃない、そんな強迫観念囚われていた時期があった。果たしてまばゆいばかりの軽薄な人ごみを逃れて、道玄坂をちょいと上がった右手「百軒店」という、新宿や池袋に似たベタな人間臭のする横丁に逃げ込んでは、幼い傷心を癒していた」
このくだりはラーメン「喜楽」の時に書いたものだけど、まさに「ムルギー」もそんな時に出合った。かれこれ30数年になる。
大昔は名物のお婆ちゃんがいて、
「タマゴ入れますか?」
と必ず聞かれるので、ついついタマゴをトッピング。いまではタマゴを付けるのが当たり前になってしまった。
ご覧のものが1952年の創業から変わらずに愛されている「ムルギーカレー+玉子増し」1050円だ。特徴的なエベレストを連想させる山形のライス。個人的には飛騨山脈の「槍ヶ岳」のほうが似てるんじゃないかと思うけど。茶褐色のサラサラなカレー、仄かに甘く、微かな酸味、ほどよくスパイシーで旨味が軽やかに充実。
「やっぱいつ食べても旨いな~」
としみじみとしてしまう。
昔、新井薬師にオバちゃん1人でやってた「カド」という系列店があって、よく利用してたけど20年ほど前に閉店。現在は西新井の「ムルギー」1店舗だけだ。
およそ60年前、今のようにカレーのバリエーションがなかった時代に、こんなハイカラな絵姿のカレーは衝撃的だっただろうね。渋谷の地に深く根付いたオンリーワンの秀逸なカレーライスだ。
〈店舗データ〉
【住所】東京都渋谷区道玄坂2–19–2 電話03–3461–8809
【営業】11時30~15時
【休日】金曜日・祝日
【アクセス】京王井の頭線「渋谷駅」西口から徒歩4分 地下鉄半蔵門線、東急田園都市線「渋谷駅」から徒歩5分 JR山手線・埼京線「渋谷駅」ハチ公口から徒歩7分 地下鉄銀座線「渋谷駅」から徒歩8分 地下鉄副都心線、東急東横線「渋谷駅」徒歩9分