四谷、荒木町界隈じゃ最近飲んでいないな。昔よく行っていた店は「寿司金」(財布に相当余裕があるとき)で寿司をちょこっとつまんで、「こくている」で1、2杯、そして「猫とバラの日々」で歌いまくって締める。ある日は「鈴傅」で日本酒をちょいと1杯、「ととや」で刺身を肴にまた1杯、そしてやっぱ「猫とバラの日々」だったな。
新宿御苑で知り合いの個展があったので、午前中に訪問して、なんとなく荒木町まで遠出してぷらぷら。「金丸稲荷」の裏通りにさしかかったとき、カレーのメニューを発見した。もうこりゃ入るっきゃない。
定番メニューにA「野菜たっぷりこうめカレー」、B「京生麩とお揚げのドライカレー」とある。おそらくイチオシはAなのだろう。正直、野菜カレーといわれてもなんの魅力も感じない、店が勧めているんだったら、自信作なのだろうと思い、
「Aでお願いします」
最初に微かな甘みのある野菜スープ、体に良さそう。次に野菜の3点盛り、キャベツの酢漬け、シラタキの醤油味の炊きもの、ジャコの炒め物、どれも美味。
そしてメインの「野菜たっぷりこうめカレー」の登場となる。
とりあえずカレーを一口「旨い!」。ご飯とともに一口「もっと旨い!」。野菜はパプリカ、スナップエンドウ、カブ、菜の花、赤カブ、ニンジン、ナスなど。素揚げにしているものや、茹でてからソテーしたもの、ちょっと塩が振ってあって、野菜本来の味が生きていて、鬱陶しさを一切感じない。野菜、ご飯とともにカレーを頬張ると「もっと美味しい」。食べれば食べるほどカレーの旨味が増してくる。スパイスはどれも突出せず、バランスよく、塩加減絶妙で、ほどよい酸味、奥深い旨みに彩られている。
「すいません、これ鶏か何かのダシ入れてるんですか?」
「いえ、野菜だけなんですよ」
驚いた。野菜だけでこんなに深い旨味が表現できるなんて…。
「でもずいぶん時間がかかるんですよ」
と気のいいお兄さん。だいたい野菜だけのカレーって、パワーとエッジが効いてないものが多くて途中で飽きてくるんだけど、これは別物だ。
「これよくできてますね、メチャメチャ美味しいですよ」
「ありがとうございます。このカレーは杉本彩さんのレシピなんですよ」
「えっ! 杉本彩ってあの杉本彩?」
「そうです、この店のプロデュースをしてもらっているんです」
よく見るとカウンター奥の棚に、彼女の写真が飾られている。杉本彩、恐るべし!
「棚にあるスターアニス、カレーに入れてるんですか?」
「いえ、あれは油に香り付けするもので、他にシナモンとかカルダンなどの香辛料で油作ってるんです」
「そうか、スパイスオイルね、カレーの上にうっすら垂らされていた油がそうなんだ」
手が込んでいる。テレビの料理番組で杉本彩さんが作ったものが絶賛されているけど、ありゃ嘘じゃなかったんだな。でもレシピを提供してもらっても、作り手にセンスがなかったら同じものは表現できない、このお兄さん、相当舌と腕がいいんだね。
久々に美味しいカレーいただいて大満足。こんど夜に来てみよう、きっとつまみも美味しいはずだろう。ちなみにこの店、1年半ほど前にオープンしたらしい。