「小野ちゃん、川口に美味しいラーメン屋があるんだよ。注文を受けてから小型の製麺機で、1玉ずつ麺切りするんだよ、仕事が丁寧でスープもよく出来てるんだよね、一緒に行かない?」
と高田馬場にあった「べんてん」の主人、田中さんに誘われた。JR京浜東北線「川口駅」西口から徒歩10分。住宅街の中にぽつんとあり、よく見ていないと通り過ぎてしまう目立たない店だ。
店内は狭小でカウンター5席のみ。店主一人で切り盛りしている。
「ワンタン麺とワンタン麺チャーシュー下さい」
まずは麺を平たく伸ばし、小型の製麺機で麺切り、そしてひと玉ずつ麺を揉む。いや~手間がかかるね。そしてワンタンを作り始める。雪平鍋にスープを人数分沸かす。
出来上がってきたのがご覧のもの。
まずはスープを一口「旨い!」、表面をおおう鶏油が上質で優れている。清湯はほのかに酸味があり本物の味。麺は手で打っているので加水が高く、麺をすすると滑らかで丁度いい噛みごたえ。自家製のワンタンの皮は歯ごたえしっかり、ひき肉は自ら肉の塊を叩いて作っているようだ。もう少し味が入っていてもいいかも。焼豚の巻バラ肉、ちょっと脂身が重たいので、もう少し煮たら完璧。
僕の焼豚はバラ肉とは別に低温調理されたもので、これ旨いね。基本低温調理の焼豚はラーメンに合ってないと思っているが、このラーメンにはピッタリ。どうやら無化調らしいが、これは良く出来ている。
僕は無化調の店は敬遠しがちで、大体の店がソバツユを飲んでいるみたいで、悲しくなる。だからいつも味の素をちょっと入れたくなってしまうのだ。でもこの店は別物。
「これメチャメチャ旨いっスね」
「だろう」
スープを飲み干し、お勘定。
すると田中さんが、
「前はどこかの店にいたんですか?」
「はい、この店をやる前は製麺所で、その前は和食などいろいろやってました」
とのことだ。
「ブログ載せてもいいですか?」
「ぜひお願いします」
「この人、高田馬場にあった『べんてん』って店の主人で、彼がおすすめのラーメン屋があるからって、連れてきてもらったんですよ」
「ええ! べんてんの方ですか、わざわざ川口までありがとうございます」
「ホントに美味しかったです、また来ますね」
久しぶりにいい職人、旨いラーメンに巡りあった。
「ちゃんと仕事してるよね、こういう店は少ないよ」
と田中さんがしみじみ呟いていた。