日本酒評論家、フードコーディネーター、デザイン会社の社長と4人で、なぜか門前仲町で打ち合わせをすることになった。「深川不動尊」の前で待ち合わせをして、適当な店に飛び込んだのだが、
「この店なんか落ち着かないよな?」
「俺もそう思ってたんだよ」
とさっさと店を出て、町を徘徊。
「この店の佇まいはいいね」
と飛び込んだのが「多幸坊」だった。もう10年ほど前のこと。
店内は左手に厨房を囲むようにカウンター7席は満杯、右手にテーブル4人席が1卓だけ空いていてそこに収まった。メニューを眺めればその品数40ほどだろうか、腹が減っていたので刺身の盛り合わせなど、5品ほど注文して、日本酒をやりながら打ち合わせを始めた。
「ここの刺身うまいな」
「イカワタ焼き食べてみな、これもいいぞ」
打ち合わせも適当に、誰もが黙々とつまみを無心に食いつく。
大衆割烹だが、中華、洋風のメニューもちょいと揃え、バケットが添えられた「はまぐりにんにくソース」も乙な味わいで、余った汁にバケットをちょいとつけていただこう。また「海老のプリプリすり身揚げ」香ばしく、はたっぷりのエビは熱々でしっとり、これが旨い。もしかも良心的な価格だ。
客層は近隣のサラリーマンでガヤガヤと賑わい、時間が経つのを忘れてしまう和み感が漂う心地よい店だ。
日本酒評論家がニコニコしながら、
「俺たちって店を見つける嗅覚が鋭いね」
と自画自賛。便乗すれば、伊達に食べ物の物書きを生業にしちゃいないのだ。
数週間後、デザイン会社の社長と2人で「多幸坊」を訪れたら満席。仕方なく適当な店で時間をつぶし、9時ぐらいに再訪して閉店まで飲んだくれていた。
いまも3ヶ月に1回ほどのペースで通っているが、いつも満席なので、予約を入れたほうがいいだろう。
店主の窪田さんに伺えば、実家がマグロ問屋を営んでいるため、希少な部位を含めた良質なマグロが仕入れられるそうなのだ。冬場は要予約だが、フグ料理も提供してくれる。
〈店舗データ〉
【住所】東京都江東区富岡1-4-13 電話03-3642-7224
【営業】月~土17時~24時
【休日】日・祝
【アクセス】地下鉄東西線「門前仲町駅」徒歩5分