「銀座のコリドー街の『ブラン亭』って知ってます?」
「いや、初めて聞いたよ。なに屋さんなの?」
「昼はカレー屋で夜はバーらしいですよ。友達の話だとメチャメチャいけてるカレー出すらしんですよね」
と、こんな話を友人から聞いていた。そんな事をふと思い出し、コリドー街近くで働く食いしん坊の先輩に確認すると、
「有名な店だよ。そうそう前々から小野に話そうと思ってて、忘れてたよ。あれはよくできたカレーだよ。行ってみな」
ということで、銀座に出向いた。コリドー街の途中にあるパン屋兼タバコ屋「エデン」の角脇の地下1階に「ブラン亭」はあった。
「なんだか怪しい建物だな…」
恐る恐る階段を下ると開け放たれた扉、覗くとママさんが1人。
「いっらつしゃい」
客はボクだけ、ママさんは50後半といったところか。店内は狭小でカウンター6席のみ。
メニューは「チキン」、「ポーク」、「キーマ」「豆」、「野菜」の5種類、すべて780円。2品を相がけにもできるようだ。
「えーと、チキンとポークお願いします」
「は~い」
「夜はやってるんですか?」
「金曜日だけ、お爺ちゃんが手伝いに来るんだけど、1日しか働かないからちょっとボケちゃって」
「ボクの実家の近所に「キッチン富士」っていう洋食屋があって閉店しちゃったんですけど、3年後に突然再開していて、オヤジさんに話聞いたら『店やめたら途端にボケちゃって、カミさんからもう一度店やれって、言われてね。今はすっかり調子良くなったけど』なんて言ってたんですよ」
「わかるわ、ちゃんと働いてないとダメなのよ、その人1日400歩しか歩かないんだって、ダメよね」
「は~400歩ね…。ところでお店は長いんですか」
「46年ね。でもここ取り壊されちゃうのよ」
「いつですか」
「来年の春、なんかホテルになるみたいよ」
すごい気さくなママさんで心が和んでくる。
テーブルに福神漬け、ラッキョウ、レーズン、フライドオニオン、グリーンチリチヤトニ、ライムチヤトニが並ぶ。
そしてカレーの登場となった。ライスの横にはライムピールと青菜のアチャールがデコレート。まずはポークを一口「うっ、旨い!」驚きの美味しさ。
サラサラで結構な辛口、スパイスの加減が抜群で、どこか日本橋室町にあった「インド風カリーライス」を思い出す、けどこのカレーの方が断然いいね。
そしてチキン、これもメチャメチャ旨い。ネットリとした舌触り、独特な風味、今まで経験したことのない味付けだ。
「すごい美味しいですね」
「あら良かったわ。うちの叔母がこのカレー作ったんだけど、スパイスはインドのラダックに住むチベット族の方から送ってもらっているのよ、あっガラムマサラね」
「へー、ラダックから、いや~美味しくてビックリ」
ホールスパイスは使われていなく、全てパウダースパイスでこしらえているようだ。カレーにフライドオニオン、グリーンチリ、ライムチヤトニを乗せてごちゃ混ぜにしていただくとまた旨い。とにかく病みつきにさせられそうだ。
ということで、翌週に再び出向き「キーマと豆」の合いがけ+目玉焼き+大盛り=900円を注文。
豆カレーは南インドやネパールにあるレンズ豆のカレーで、これが塩加減バッチリで旨い。
キーマは豚と鶏の合挽き、ドライタイプでちょい辛口これも旨い。
総合的にポークとチキンカレーが秀逸で、このカレーひょっとしたら銀座でナンバーワンって言っても過言じゃないかも。
銀座のランチで780円はありがたいし、このカレーのクオリティーは凄い。でも来年の春にこのカレーが食べられなくなるなんてもったいない。
帰りに、空き地の建築計画の立て看板を見ると、どうやら「銀座グランベルホテル」になるようで、着工予定日が来年の5月30日とのこと。それまでに「ブラン亭」に何回通えるだろうか。
〈店舗データ〉
【住所】東京都中央区銀座7-2-17南欧ビルB1 電話03-3571-0972
【営業】月~木11時30分~16時 金11時30分~22時
【休日】土・日・祝
【アクセス】地下鉄各線「銀座駅」C2出口から徒歩4分。「新橋駅」から徒歩5分。