田町にある「慶応仲通り商店街」のはずれに、ひっそりと佇む黒塗りの店。赤暖簾に白抜きに「餃子」と書いてあるだけで、確かに店名がない。
「みんなが『名前のない餃子屋』って言ってるんだけど、ここ美味しいのよ」
とこの近所に務める友人からの情報だった。
「あれ、この店って昔『がんこ』じゃなかったかな」
「がんこ」とは、現在四谷の「杉大門通り」にある「一条流がんこラーメン」のこと。その暖簾分けの店で、数回ばかり入ったことがあった。基本「がんこラーメン」の外装はほぼ黒塗と決まっていて、恐らくこの餃子屋は居抜きで使っているのだろう。
店内はカウンター8席、70前後の物静かなおばちゃん1人で切り盛りしている。餃子は「焼き餃子」450円と「水餃子」450円の2種類。その他定食が700円となっている。すでに違う店で昼飯を済ませているので、
「焼きと水餃子ください」
「はい、ご飯はいらないの?」
「ええ、餃子だけで」
作り置きした冷凍の餃子を丸鍋に並べ水を注ぎ蓋をする。水餃子はテボに入れて鍋の湯にかける。10分ほどでご覧のものが登場。
ふっくらと丸い形状の焼き餃子をパクリ。ムッチリとモチモチの皮の食感よし。ニラがたっぷりで、肉汁がややほとばしる。
「おお、美味しいね~」
下味が入っているのでそのままで充分。中国北方餃子のテイストながら、ちょい野菜が多めに練り込まれているような。
「水餃子」は焼きと同じもので、茹でたものもまた美味しいね。
タイミングを見て店名を聞いてみようと思ったけど、このおばちゃん、そのスキを与えてくれない。この人のキャラからして店名なんて必要がない、というオーラが漂っている。実際に名前なんてないのかもしれない。
隣の客を見ると餃子とご飯をパクつきながら味噌汁をすすっている。
「やっぱご飯と一緒に食いたいな、定食にすりゃよかった」
とちょっと後悔。後日にとっておこう。
〈店舗データ〉
【住所】東京都港区芝5–25–2 電話03–3451–3661
【営業】11時30分前後~14時 17時30分~21時
【休日】土・日・祝
【アクセス】JR「田町駅」・都営地下鉄「三田駅」から徒歩4分