「あら~タイプだわ~」
隣の客からほほ笑みかけられ肝がヒヤッとした。とりあえず会釈して何事もなかったかのように装うと、
「あら、なに知らん顔してるのよ」
と言われても…。新宿2丁目の小さなゲイバーでの出来事。
「アナタどこか物書き風ね」
「ええ、まあ、食べ物関係のライターでして」
「へー、フランス料理とか」
「いえいえ、庶民の食べ物ですね」
「あら、いいとこあるわよ。アタシが勤めている会社の近所なんだけど『キクヤ』、ここのオムライスコロッケいいわよ」
高価な腕時計、オーダーメードとおぼしき背広から察してこのゲイのビジネスマンは、相当うまいものに出合っているだろうと判断した。
数日後「キクヤ」を訪ねれば、ちょいレトロな外観に心動かされた。11時ちょい過ぎの店内は、昼の弁当作りの真っ只中、活気に満ちている。おすすめの「オムコロ」(オムライスコロッケ当時950円、現在1000円)は、小判皿にキャベツの千切り、洋食屋伝統のケチャップライスにパリっとした薄焼き玉子、その横にデミソースのかかったクリームコロッケが一つ。
そのオムライスは混ざり気のない潔い口当たりで、カニの身と仄かな香りが心地よい、クリーミーにして実に円やかなコロッケの旨味に、食欲が加速した。
女将さんの話によれば、近隣にある「ヤナセ本社」の当時会長が「世界中で一番うまいコロッケ」し賞賛してくれたそうなのだ。納得。
現在、10年ほど前にリニューアルオープンして、やや小綺麗になったけど、前とさほど変わらない。1階は36席ほど、2階席もあり、昼時はサラリーマン、OLでいつも賑わっている。客の5割が「オムコロ」で、その他「オムカレーコロ」、「スパコロ」(スパゲティコロッケ)、「ハンコロ」(ハンバーグコロッケ)も美味しんだよね。
お会計のとき、女将からチョコレートのプレゼント、
「ありがとうございます」
あれ? こんなサービスあったかな…。たぶんバレンタインの残り物のお裾分けかな。
〈店舗データ〉
【住所】東京都港区芝浦1-4-13 電話03-5451-1336
【営業】11時30分~14時30分 17時30分~21時 土11時30分~14時
【休日】日・祝
【アクセス】JR「田町駅」東口から徒歩9分 都営三田線・浅草線「三田駅」A7出口から徒歩8分 JR「浜松町駅」南口から徒歩10分