「本郷通りをクルマで走っているとき、豚汁専門店見つけたんですけど、小野さん知ってます?」
「いや、豚汁専門店なんて初めて聞いたよ」
とある立ち飲み屋の常連、便利屋の兄ちゃんからの情報だった。豚汁というと、クルマで旅行するとき早朝のドライブインで食べるか、とんかつ屋ぐらいしか機会がない。
「豚汁」だけで勝負している店っていい度胸しているし、そんなの成り立つのか不思議。でその検証のため訪れた。店は東京大学の正門前。看板に「吉田とん汁店」とあり潔い。店内はカウンター10席、40ちょい過ぎのご主人1人、ナッパ服を着た先客が2人いた。
「定食でよろしいですか?」
「あっ、はいそれで」
「大盛りにしますか?」
「普通で…」
なにも分からず言われるがまま。メニューに気づき眺めるとやはり「豚汁定食」680円のみだった。
「ホントに豚汁だけなんだな…」
登場したものは大きな丼に具だくさんの豚汁。
ご飯、小鉢は切干し、菜っ葉とウインナーのカレー風味炒め、大根の壺漬けと梅干の3皿。
豚汁をいただくと、普通に美味しい豚汁。具は大きめな豚肉、豆腐、大根、ジャガイモなど。う~ん、紛れもなく豚汁なんだけど、これだけでいいのか? おそらく日替わりで小鉢は変わるのだろうけど、豚汁のバリエーションを増やさなければ、飽きられてしまうんじゃないか、って心配してしまう。目の前の「地卵」に気づき、
「卵もらいます」
「はい」
「コレ何ですか?」
「それは食べるラー油で、ご飯にかけてみて下さい」
ご飯に溶き卵、食べるラー油を乗せて一口。美味しい、この食べるラー油、にんにく風味で一味が効いていてなかなか乙な味わいだ。
美味しいのは間違いないんだけど、しかし疑問が残る。
ラーメンやソバ、カレーだったら毎日食べてもさほど飽きないけど、豚汁は半年に1回食べればいいほう。リピーターが少ないだろうに。
例えば、商売をやる上で無駄はあるけど、定番の豚汁は常備して、日、週替わりでカレー風味、トマト風味、粕汁風、ボルシチ風とか。または具を変えるとか、例えば、豚ひき肉の団子、鶏団子、キドニービーンズ、黒豆、落花生などなど。あるいは「豚汁風ラーメン」とか「豚汁風うどん」なんてのもあっていいんじゃないか。
心意気は買う。でも大きなお世話だけど、もっとうまい商売考えられると思うんだけど。
〈店舗データ〉
【住所】東京都文京区本郷6–2–1 電話なし
【営業】11時30分~21時30分
【休日】日・祝
【アクセス】地下鉄大江戸線・丸ノ内線「本郷三丁目駅」3番出口から徒歩5分