「体に優しい食べ物」なんていう謳い文句が巷の料理屋に氾濫している。でも、そんな店に限って美味しかったためしがない。それは、ヒステリックにいい食材、無添加調味料ばかりに気を取られ、肝心の技術が伴っていないからに他ならない。
でも僅かだけどちゃんとした店はあるものだ。この店のカレーをいただいたとき、まさに「体に優しい食べ物」を実感させられた。
ここのカレーは小麦粉やバターを使用せず、タマネギと独自にブレンドしたスパイス、自家製カレー粉などで仕上げられている。
例えば「鶏のカレーライス」は、まさに「体に優しい食べ物」を実感させられた。ちょいと塩加減に物足りなさを感じるが、食べ終わる頃にいい塩梅になるよう計算されている。嫌味じゃない仄かな甘み、バランスの取れたスパイスの配合、美しくデコレートされた大きめな具それぞれの個性が生かされ、特に鶏肉をいただいたとき、肉を実感させながら、カレーソースと一体になったほどよい歯触りに技を感じ、さらに不純物のない潔い味わいに驚いた。
また、たっぷりのレンズ豆と羊の挽肉の「羊カレー」は、これも同様、塩加減に物足りなさを感じるが、食べ終わる頃にいい塩梅になになる。バランスのいいスパイス感、奥深い旨味、レモンをちょっと絞ると、さわやかな美味しさに変貌する。
「長年飲食業界に携わり、多くの店でウソを見てきたんですよ。化学調味料不使用、なんて言いながらしっかり添加されていたり、国産野菜と言いながら外国産だったり…。僕たちはそれを信じて食べるしかないんですよね」
と店主の大野氏。インパクトのある味わいとは言い難いが、ジワジワ体が癒されていくような、確かな技に裏打ちされた美味しさなのだ。