元祖 カレー研究家 小野員裕

湯島「古式手打蕎麦」スーパーで山芋を眺めていたら、閉店した蕎麦屋の「山揚げそば」を思い出してしまった、もうあのそば食べられないんだよね。

2016年1月に閉店した蕎麦屋を偲んで、昔の記事を紹介する。

湯島天神からほど近い「古式蕎麦」は店構えからして老舗風情を漂わすが、創業は1981年。湯島界隈では比較的新しい店だろう。ここで使用されている蕎麦粉は「藪粉」でも「更級粉」でもなく、玄ソバのまま甘皮まで一緒に挽き込んだ「挽きぐるみ」と呼ばれる全層粉を使用している。

そのため色は黒っぼく、どこか野趣に富む。古の蕎麦はみなこのような姿だったそうで、その打ち立てが味わえる東京で唯一の店ではないだろうか。

名物は「山揚げそば」。主人がある居酒屋のメニューにヒントを得て誕生したもので、これが実にうまい。

たっぷりの山芋を油で揚げた香ばしい天ぷらが乗った姿は、眺めているだけで胃袋が刺激される。つゆは嫌味な甘さがなく醤油の切れ味が冴え、ワイルドな蕎麦粉の香りが心地よい。

まずはつゆをすすり、蕎麦をズズっと一口。揚げ立ての湯気が立ち昇る狐色の山芋をほぐせば、ホクホクにして熱々、火傷をする恐れがあるのでゆっくりといただこう。

さらに薬味の大根おろし、青ねぎ、七味などをそれぞれ振り入れれば、幾通りもの食べ方が楽しめ、これ一杯で満腹になるありがたい逸品なのだ。

客層は遠方らの客や、女性、初老のカップルが目立つ。夜は「山あげ」の単品をつまみに日本酒という乙な過ごし方もあるが、〆には生醤油と大根おろしのつゆでいただく素朴な「もりそば」もたまらない。

しかしこの「山揚げそば」が恋しいな。

【住所】東京都文京区湯島3205 電話0338365229

【営業】11時~14時30分 17時30分~21時

【営業】日・第3月曜日・祝日は昼のみ営業

【営業】地下鉄千代田線「湯島駅」徒歩