19歳の頃、初めて真冬の札幌を訪れた。バックパッカーとしてのデビューである。「大通公園」でまどろんでいると、メガネをかけた4、50歳のオヤジが話しかけてきた。
「兄ちゃん腹減っでねーか?」
「あっ、はい」
「だったら俺がおごってやっから、ジンギスカンでも食いに行くべ」
オヤジの勢いに飲まれるように、「札幌ビール園」にふらふらとついて行ってしまった。
「飲め飲め、食え食え」
未成年だったが、ビールをジャカスカ、ジンギスカンを貪り、もうお腹一杯。
「ちょっと、トイレ行っでくるから」
と言って、オヤジはそのままトンズラ。
「騙された!」
当然、支払いは全部こっち持ち、参った。その後、斜里の民宿で「ビール園」の話をすると、
「そのオヤジ、メガネかけてなかった?」
「オレもやられたよ」
バックパッカー初心者の何人かが、札幌でオヤジの洗礼を受けていたのには驚いてしまった。その後、オホーツクの流氷の海に落っこちて、死にそうになり。稚内で、周遊券と財布を盗まれた。ヒッチハイクでやっとの思いで、札幌の「大通公園」に再び舞い戻る。持ち金は30円、寝袋にくるまってベンチに横たわっているしかなかった。もうほとんど餓死寸前。
「兄ちゃん、大丈夫か? 腹減っでねーか?」
と突然声をかけてくる4、50歳ぐらいのオヤジ。
「旨いもん食わしてやっから、ついてきな」
またか…。もういいや、どうせオヤジに食い逃げされても金持ってないし、どうにでもなれ! 腹をくくってオヤジのクルマに乗せられて行ったのが、中の島の「純連(すみれ)」だった。
「この味噌なまら旨いぞ、食え食え」
熱々で濃厚な味噌スープ、濃い口の味に負けない力強い縮れ麺、また塩辛さがたまらない、とにかく胃袋に染みわたり、冷え切っていた体が芯から温まった。
「旨いっスね~」
「たべ。もう一杯お代わりしな」
言われるままに2杯目もあっという間に平らげてしまった。
そのオヤジ、しっかりおごってくれて、東京までの電車賃を貸してくれた。助かった。
現在関東で「純連系」が食べられるのは、「新横浜ラーメン博物館」の「すみれ」と船堀の「大島」、渋谷「真武咲弥」、早稲田「真武咲弥」。そして高田馬場「羅偉伝」(旧名さっぽろ純連)だ。2014年6月に「純連」が撤退し、後に従業員が引き継いで「羅偉伝」と店名を改めた。
ご覧のものが思い出の味噌ラーメン800円。表面はラードで覆われ熱々、ニンニクと山椒の風味がどこか香ばしさを醸し出す。力強い縮れ麺、実に旨いね~。でも塩辛さは本店より抑えられていて、また焼き豚は本来大き目なサイコロ状なんだけど、ここはちょっと薄切り。
昔ほどの感動はないけど、この味噌ラーメンを食うたびに、あの時の餓死寸前だった「大通公園」を思い出す。
〈店舗データ〉
【住所】東京都新宿区高田馬場3-12-8 電話03-5338-8533
【営業】11時~22時30分
【休日】無休
【アクセス】JR・地下鉄東西線「高田馬場駅」徒歩5分