千葉県の柏を訪れるのは5年ぶり。サラリーマン時代の友人が、この地に「のんどころ庵」を開店させて13年になるだろうか。近頃では酒場放浪を楽しむ遠方からの客にも人気の居酒屋に姿を変えた。
この日はわりと近所に住んでいる飲み友の女子、鹿児島のダチョウ肉の卸を生業にしているタラちゃんに付き合ってもらった。
「いや~久しぶり」
「元気だったか」
店内は右手にL字のカウンター、左手にテーブル席、トータル15、6人ほどかな。しばらくすると地元の常連が2人訪れる。間もなく商談を終えたタラちゃんの登場。
「遅くなってゴメンね」
まずは生ビールでカンパイ。次に「レトロハイ」これいるね。
「なんかオススメある?」
「ホルモン炒めと骨付き軟骨焼き、美味しいよ」
料理ベタだったのに13年も店をやれば手馴れた手つき、どれも乙な美味しさだ。
「いや~料理上手くなったな」
「そりゃそうただよ」
店内の壁には所狭しと貼られたメニューがいい具合にセピア色、すでに燻し銀の風情を醸している。
※これ「グッドウメ」390円。効きそう!
「ここで25組のカップルが誕生したんだよね」
「いや~すごいね」
「へ~、超ウケるんだけど」
とタラちゃん。なにが超ウケるのか理解不明だけど、なんか楽しいね。
店主の坂口は客と客を会話させ盛り上げることに長けている。知らない者同士、自然に打ち解けて話題が弾み居心地のいい空気が流れ、ゆえに酒が旨くなる。この店が流行る理由がよくわかる。
「オレ1人でやってるからさ、お客さんたちで話してくれないと仕事が回らないんだよ」
結果オーライってことだ。次々に常連が来店。この柏とボクの地元で居酒屋を出入り禁止になった客の話で盛り上がる。
「斜向かいにある『富良野』って店があるんだけどさ、そこの店主、俺たちは会長って読んでるんだけど、昔はハチャメチャだったんだけど、いまはすっかり落ち着いて」
その「富良野」は地元でいろいろな店で断られた客の終着駅なんだそうだ。
「会長は人ができていてさ、とにかく優しいのよ」
その店が気になって仕方なく、
「タラその店行ってみたい」
ということになり、お勘定。数々の武勇伝を持つ地元で一番古株の会長の店「富良野」にお邪魔すると、先ほどの常連が2他人。
「あれ来たの?」
「坂口の話が面白くて、なんか気になっちゃって」
「おおテツと知り合いなの?」
テツとは坂口の下の名前、地元ではそう呼ばれている。
「昔の同僚なんですよ」
「そうかい」
60半ばのご主人、小さくカットしたショートピースをキセルに詰めて燻らす、いなせな姿、なんとなく昔やんちゃをしていた面影があるけど、いたって穏やか。この店もいいね。そのキセルをちょい吸わせてもらった、やっぱショートピースはキツイね。
ウーロンハイなど2杯ほど飲んでお暇して、再び「庵」に戻ると、女性客で大盛況だった。
この居酒屋が名店と謳われる日はさほど遠くない。間違いなく居心地よく楽しい居酒屋だ。
この日、日本酒やビール、サワー類など何杯のんだだろう。メチャメチャ酔っ払っていたので、遠い帰路も苦にならなかった。
〈店舗データ〉
【住所】千葉県柏市泉町4–7 電話04–7164–1300
【営業】18時~翌1時 土18時~24時
【休日】日・祝
【アクセス】JR常磐線「柏駅」東口から徒歩6分